高齢者の尊厳に配慮した介護の重要性

介護サービスへの利用者からのクレームから深刻な問題へと進展してしまう要因を見ていくと、そこには高齢者側の誤った解釈が見過ごせないのが現状だ。邪見な扱いを受けたとの先入観など、介護サービス提供者側が、利用者への尊厳を十分に伝え切れていなかった可能性が考えられるのである。しかし介護を必要とする高齢者に対し、年齢の若い健常者と同様に、より多くの言葉だけで尊厳を伝えることは困難であり、相手に伝わる、理解できる方法でのコミュニケーションが重要だ。

聴力が弱まり、瞬時に目や耳から得た情報を頭の中で処理するのが難しい相手だからこそ、表情や口調に配慮する姿勢が重要だ。耳が遠いからと大声で話しかけるだけでは、叱られたなどの負の印象を抱き兼ねず、あくまで口調は柔らかく、語尾はやさしくハッキリと話すことが大切だ。しっかりと相手の目を見て、顔の筋肉全体で、少々大袈裟と自覚できるぐらいの表情の動きがむしろ、高齢者には理解しやすい伝達方法だ。

高齢者側が少しずつながらも確実に、介護する側の存在を受け入れてくれれば、自ずと自然な距離感での信頼関係が構築されてゆくものである。介護を受ける側に、相手を理解しようとする姿勢が芽生えれば、自ずと無用な誤解やトラブルのリスクは小さくなるものだ。高齢者への介護サービスの提供に際しては、表情と声色、そして口調に注意を払いつつ、相手への尊厳をより自然に伝える姿勢が不可欠である。